2016年度 秋の研究大会 短信

→短信:報告と写真を掲載しました [2016/12/21]

EMCA研究会2016年度研究大会のプログラムをお送りいたします。多くのみなさまのご参加をお待ちしております。

(大会担当世話人:黒嶋智美・森一平)

日時 日時:2016年10月23日(日)10:00-17:00
場所 成城大学3号館1階 311教室・312教室[地図]
大会加費 無料(会員・非会員とも)

プログラム

10:00 受付開始
10:30-12:00

第一部:自由報告

  • セッション1 (司会 森一平(帝京大学)) 311教室
    • 10:30-11:00 小室允人(千葉大学大学院)「対話システムらしさ」とは何か?:WOZ法におけるシステム役の相互行為実践[→概要
    • 11:00-11:30 浦野茂(三重県立看護大学)社会生活技能訓練におけるロールプレイについて:その実践的特徴[→概要
    • 11:30-12:00 大石真澄(総合研究大学院大学)テレビCMで「おいしさ」を示すことの作用について [→概要
  • セッション2 (司会 黒嶋智美(日本学術振興会・千葉大学)) 312教室
    • 10:30-11:00 フルルバト(専修大学大学院)協力的質問[→概要
    • 11:00-11:30 荒野侑甫(千葉大学大学院)異文化間相互行為における第二言語の訂正活動:他者訂正のあとの繰り返し[→概要
    • 11:30-12:00 山本真理(早稲田大学)・張承姫(関西学院大学)一人称代名詞「私」を用いた聞き返し[→概要
12:00-13:30 昼食
13:30-14:00 総会 311教室
14:00-17:00
  • 第二部:書評セッション 酒井泰斗、浦野茂、前田泰樹、中村和生、小宮友根(編)2016、『概念分析の社会学2』(ナカニシヤ出版) 311教室
    • 14:00-14:05 主旨説明:司会 黒嶋智美(千葉大学)
    • 14:05-14:45 書評1(40分):評者 池谷のぞみ(慶応義塾大学)
    • 14:45-15:25 書評2(40分):評者 平本毅(京都大学)
    • 15:25-15:40 休憩(15分)
    • 15:40-16:30 編者・著者リプライ(50分)
    • 16:30-17:00 全体討論(30分)
17:00 閉会

自由報告発表概要

「対話システムらしさ」とは何か?:WOZ法におけるシステム役の相互行為実践 小室允人(千葉大学大学院)

本報告ではWOZ法を用いた対話システムとの会話場面を取り上げ、「対話システムらしさ」を支えるやり方について検討する。WOZ法とは、システム側の発話をコンピュータが生成するのではなく、実際はシステムのふりをした人間が発話を生成することで、あたかもシステム自体が全自動で会話をしているように見せかけるシュミレーション手法である。システムと対話する被験者には、その背後でwizard(人間)が操作しているということが隠されており、wizardはできるだけシステムが全自動で動いているということを被験者に信じ込ませる為に、いかにもシステムが言いそうな発話をあえて産出したりする。このような「対話システムらしさ」は、被験者らによってしばしば不適切な発話として理解されているが、単に不適切であるだけではなく、いかにも対話システムがやりかねない特有の不適切さとして、特定の手続きに則って成し遂げられていると考えられる。発表では、wizardが被験者との相互行為の中で実践している、システムらしく振る舞うためのやり方を明らかにすると共に、WOZ法を用いたシュミレーション実験とは、一体どのような活動として達成されているのかについても考察したい。

社会生活技能訓練におけるロールプレイについて:その実践的特徴 浦野茂(三重県立看護大学)

この報告は、自閉症児を対象とした社会生活技能訓練について、とくにロールプレイによる練習場面を対象とし、この場面を構成している実践上の諸前提を明らかにする。社会生活技能訓練とは、精神障害者をおもな対象とし、社会生活の模擬的場面において生活技能の回復と改善を促す治療法である。ここで重視されているのは、訓練の対象者が各自の生活ニーズに沿った社会的技能を、それに即したロールプレイを通じて習得することである。このため各セッションの実施においては、実際のロールプレイを行うなかで利用者の障害特性を特定し、改善のためのフィードバックを与えることが求められている。このことを踏まえてこの報告では、ロールプレイを構成する各局面、すなわち参加者のニーズの特定と場面設定、実演の各局面を検討する。これにより、社会生活技能訓練のもつ諸特徴、すなわち訓練における評価対象となる振る舞いの水準と訓練のレリヴァンスの可視化方法、そして訓練の眼目を、実践の組み立てられ方のなかに特定することになる。

テレビCMで「おいしさ」を示すことの作用について 大石真澄(総合研究大学院大学)

テレビCMが「モノを売る」ために行われる広告の一形式である、という定義を一旦とるとすれば、そこで対象となる食品や近辺の商品について、その「おいしさ」を示すことは、味を伝え、売り上げにつなげるための活動であると考えることができる。しかし、このことには問題が含まれているように見える。多くの相互行為研究が明らかにしてきたように、「おいしい」ことの提示は、その場の中で実際に味を伝える以外の機能をさまざまに持っているからだ。これを踏まえると、テレビCMにも「味を伝える」以上に別のことに「おいしさ」が機能している可能性がある。この点に着目して、「おいしさ」への言及やその提示が、テレビCMの中でどのような機能を持っているかという点についての分析を行った。分析の結果、テレビCMにおいては「おいしい」という発話そのものは味の伝達に関してほぼ意味を持たず、かわりに実際の味の想起は、何らかのオブジェクトの提示によって行われていた。ここからは、わたしたちがすでに手元に持っている情報を適切に引き出すための検索のような能力をテレビCMが有していることが見えてくる。

協力的質問 フルルバト(専修大学大学院)

本研究では英語の日常会話における相互行為とイントネーション(主に音調パターン)の役割を考察する。会話分析(CA)の方法論を用いて、語りの受け手が語り手の先行発話から復元できる情報を提示する平板調による「追加疑問文」(appendor question)を用いることで、その情報を明らかにすることを求めると同時に、その情報に関する語りの詳細に関心を持つことを示す。追加疑問文が一定の沈黙の後に提示されることは語り手に語りを継続するための時間を与えていることを示している。語り手が語りを継続して、その中で受け手の理解が解決されれば、受け手が理解候補を提示する必要がなくなるからである。追加疑問文が提示された後、語り手がその情報に関して詳細に語ることから見ると、語り手と受け手が語りの進行性に志向し、語りを協同的に進行させていることが観察できる。したがって、受け手が語りに関する理解の問題を提示するために用いた追加疑問文が受け手として語りの進行性に貢献するための協力的質問として働いていることと、そこに、追加疑問文に一般的に用いられる上昇調、あるいは、下降調ではなく、平板調が用いられることが大きく関わっていることが明らかになる。

異文化間相互行為における第二言語の訂正活動:他者訂正のあとの繰り返し
荒野侑甫(千葉大学大学院)

 異文化間相互行為において「言語規則に正しく従うこと」に会話の参加者はいかに志向するのだろうか。この疑問に対して、第二言語の言語規則が焦点となっている訂正連鎖を観察し、そのプラクティス(やり方)を記述することで応えたい。

 本発表では、会話分析の手法を用い、日常的な異文化間相互行為における訂正連鎖にて行われる「他者訂正のあとの繰り返し」という現象について報告する。この現象は、次のように展開される。まず第二言語として日本語や英語を話す参加者(第二言語話者)が、第二言語のある表現候補を産出する。次いで、その発言の受け手が正しい発音や形式でその表現を繰り返し、訂正を行う。そして第三の順番で、最初の話者が訂正された表現をさらに繰り返す。

 本発表は、まず会話の参加者は、言語規則に正しく従うための基準をどのように提示するのか、そしてその言語に習熟した受け手はいかに提示された基準に従おうとするのかについて議論を展開する。第二に、「他者訂正のあとの繰り返し」というプラクティスによって、相互行為において何が達成されているのかについての分析を報告する。 最後に、これらのやりとりによって、いかなる活動が参加者たちによって経験されるのかについて検討をしたい。

一人称代名詞「私」を用いた聞き返し 山本真理(早稲田大学)・張承姫(関西学院大学)

本発表では一人の参与者(話者 A)が質問を行うときに、次の応答すべき受け手(話者 B)が「私 ですか?」のような一人称代名詞を用いた形で聞き返す現象を対象とする。本研究では1)受け手 はなぜ質問の次の位置で応答をすぐに産出せずに一人称代名詞による聞き返しを行うのか、(2) それによってどのような行為がなされているのかを会話分析の立場から明らかにする。分析の結果、 いくつかの特徴がデータに観察された。まず、本稿で用いる事例は基本的には二人の会話場面であ るため、話者 B は一人称代名詞を用いて聞き返さなくとも、話者 A の質問が話者 B 自身に向けら れた発話であることが明白である。また、話者 B は「私ですか」に対する承認を待たずに応答を開 始する事例が複数あり、話者 B は必ずしも直前になされた質問の聞き取りや理解の問題には志向し ていないことがうかがえる。更に、話者 B が開始する応答は「即答できなかった」何らかの理由説 明を含んだものになっている。例えば、話者 A によって職業を問う質問がなされた場合、一般的に は「医者です」「教員です」のように一言で答えることが期待される。しかし、実際には一言では 説明しにくい職業であることが語られ、それ自体がなぜ即答できなかったのかの理由にもなってい る。以上から、本発表では次のことを主張する。話者 B は一人称代名詞による聞き返しを行うこと で、あえて「私」をハイライトした形で応答を遅らせ、応答に何らかの躊躇があることを示す。そ れにより、これから開始される私自身に関わる事柄の開示が、話者 A の質問に対する応答として一 般的に期待されるものとは何らかの形で異なっていることを事前に示す役割を果たしている。

お問い合わせ

  • この案内に関する問い合わせ先:前田泰樹
  • 入会手続き等,EMCA研に関する問い合わせ先:エスノメソドロジー・会話分析研究会 事務局