2015年度 春の研究例会 短信

概要

EMCA研究会2015年度春の研究例会を下記のとおり開催いたします。第2部では、先日刊行された、高田明・嶋田容子・川島理恵編,2016,『子育ての会話分析――おとなと子どもの「責任」はどう育つか』の書評セッションを設けました。多くのみなさまのご参加をお待ちしております。

大会担当世話人:戸江哲理・森本郁代

(最終更新: 2016年2月15日)

日時 3月6日(日)10:30-17:10
場所 関西学院大学梅田キャンパス 10階1004教室 [地図
大会参加費 無料(会員・非会員とも)
事前参加申込 不要

プログラム

10:10 受付開始
10:30-12:10 第1部 自由報告
10:30-11:00 吉陽(筑波大学大学院)「ヒア・レスポンスにおける学習者の修正やりとりの構造――問題点を指摘する連鎖に着目して」 [→要旨
11:05-11:35 平本毅(京都大学)「会話分析におけるマルチモーダル概念再考」 [→要旨
11:40-12:10 岡田光弘(国際基督教大学)「観察社会学(エスノメソドロジー研究)によるワーク研究の中心は教育の研究でした。」 [→要旨
13:30-17:10 第2部 書評セッション 高田明・嶋田容子・川島理恵編,2016,『子育ての会話分析――おとなと子どもの「責任」はどう育つか』昭和堂.
13:30-13:55 高田明(京都大学)本全体についての概説
13:55-14:10 遠藤智子(日本学術振興会特別研究員RPD)・高田明
第2章「言うことを聞きなさい――行為指示における反応の追求と責任の形成」
14:10-14:35 黒嶋智美(日本学術振興会特別研究員PD)
第3章「ん?なあに?――言い直しによる責任の形成」
14:35-14:50 川島理恵(関西外国語大学短期大学部)・高田明
第7章「家族をなすこと――胎児とのコミュニケーションにおける応答責任」
14:50-15:00 休憩
15:00-15:15 コメント:橋彌和秀(九州大学)
15:15-15:30 コメント:西澤弘行(常磐大学)
15:30-15:45 コメント:五十嵐素子(北海学園大学)
15:45-15:55 休憩
15:55-16:25 執筆者陣のリプライ
16:25-17:10 総合討論
17:10 閉会

自由報告要旨

(1)「ヒア・レスポンスにおける学習者の修正やりとりの構造: 問題点を指摘する連鎖に着目して」(吉陽・筑波大学大学院)

本研究は会話分析の研究手法を使用し、作文活動であるピア・レスポンスにおける学習者のやりとりを考察する。ピア・レスポンス(以下PR)とは学習者同士がお互いに書いた作文をもとに書き手と読み手の立場を交換しながら、インターアクションを通して作文を検討する活動である(池田2003)。PRにおいて、読み手は相手の作文について、自分のコメントや意見を述べる役割を持っており、さらに、相手の作文を改善するために、肯定的なコメントより、作文における問題点を指摘することは主要な行為だと言える。しかし、PRのような相手の作文に問題点を指摘する行為は正当な場においても、相手のファイスを脅かす危険性が存在しており、同じく学習者である相手の作文に対して、問題点指摘は容易なことではないと考えられる。

したがって、本研究は会話分析という研究手法を用いて、PRにおいて、読み手はどのように相手の作文について問題点を指摘するのかを明らかにすることを目的とする。

分析結果として、読み手は主に?問題点指摘の連鎖に入る前に、書き手の意図を確認するプレ的な連鎖を用いること、?問題点に対して、可能な改善案を提示する、という2つの方法を用いることがわかった。

(2)「会話分析におけるマルチモーダル概念再考」(平本毅・京都大学)

会話分析研究の最近の潮流の一つに、身振りや視線、道具使用などの、相互行為における非音声言語的資源のはたらきを解明するマルチモーダル(Multi-modal)分析(Stivers & Sidnell, 2005; Streeck, Goodwin & LeBaron, 2011)がある。

本発表では会話分析研究の歴史の中での非音声言語的資源の扱いをレビューし、また現在の研究事例の中でマルチモーダル概念がどう使われているかを概観したうえで、会話分析者がこの概念をどう位置づけるべきかを論じる。その結果、マルチモーダル分析の主導者たるGoodwin夫妻に加えSacksSchegloffらも早い時期から身体資源の分析を行ってきたこと、マルチモーダル概念が社会記号論など外部の分野から持ち込まれたものであること、この輸入にはGoodwin夫妻の2000年前後の研究動向が密接に関わっていること、現在マルチモーダル概念が使用される際に、しばしば既存の音声言語資源中心の会話分析研究との対比が行われることなどが明らかになる。

以上をふまえたうえでの報告者の暫定的な結論は、マルチモーダル概念は研究のポジショニングを行う際や議論を整理する際に便利なものなのでその点において有用性がみとめられるが、それが会話分析研究の志向性とどれだけ整合的かは認識しながら使うべきであり、とりわけ分析上の記述に用いる際には細心の注意が必要だというものである。

(3)「観察社会学(エスノメソドロジー研究)によるワーク研究の中心は教育の研究でした。」(岡田光弘・国際基督教大学)

目的:EMCA,特に、ワークのエスノメソドロジー研究(ESW)における教育研究の意義を明らかにすること

方法:ESWにおける教育研究の伝統を学史において示すこと

結論:観察社会学(エスノメソドロジー研究)においては、ワークは、何らかの「方法による達成」を指す言葉である。研究史をひもとくならば、ワーク研究(ESW)は、Sacksらによる会話の達成をモデルに、GarfinkelSudnowによる大学での化学の講義を研究したのがその嚆矢であった。この流れは、Garfinkelと、その弟子であるBurnsによる研究に引き継がれた。彼女とGarfinkelとの研究は、大学での社会学の講義をフィールドに行なわれたものだった。その後、師の教えに遵いイエール大学のロースクールに進んだBurnsは、自らの経験に基づき、法曹教育を題材にして教育のワーク研究を行なうことになる。

観察社会学は、メンバーの(Ethno)方法に学ぶ営み(Methodology)である。そこには、身体で学んだ適格な能力(Vulgar Competence)に基づき、その場で起こっている「固有の方法に寄り添うべしという要請(Unique Adequacy Requirement)」がある。そのためは、必ず、研究対象である活動の実践者でもあることが必要なのであろうか。それは、いわゆるオート・エスノグラフィとは何が違うのだろうか。

先に挙げた Garfinkel – Sudnow – Burns という流れ以外の、Garfinkel – Lynch & Macbeth、また Garfinkel – Livingstone という教育のワーク研究の流れにも触れ、こういったことについて考えたい。

お問い合わせ

  • この案内に関する問い合わせは、森本()まで
  • 研究例会に関する問い合わせは、EMCA研世話人(エスノメソドロジー・会話分析研究会 事務局)まで