2008年度 春の研究例会

概要

今年は、午前中に研究報告、午後には「会話分析と概念分析の関係を再考する」と題して発表+ディスカッションを催します。みなさんお誘いあわせの上、是非ご参加ください。

(担当世話人:西阪仰・前田泰樹・池谷のぞみ)

■日時: 2009年3月30日(月) 9:30~17:00
■会場: 明治学院大学白金キャンパス 本館1201教室[アクセスマップ]
■参加費: 会員* 500円/一般 1000円(予定)

*入会申込については →入会のご案内 をご参照ください。

プログラム1

9:30~12:30 研究報告と議論 (司会進行:池谷のぞみ(Palo Alto Research Center))

09:40-10:30 研究報告1:岩田夏穂(東京国際大学)・初鹿野阿れ(東京外国語大学)・西阪仰(明治学院大学)「発話連鎖におけるからかいと反応」[→要旨
10:40-11:30 研究報告2:田中剛太(明治学院大学大学院)「からかいの誘い」[→要旨
11:40-12:30 研究報告3:権賢貞(筑波大学大学院)「日本語第一言語話者と第二言語話者の相互行為における知識探索:指示対象に対する間 主観性と相互行為の進行性をめぐって」[→要旨

プログラム2

14:00~17:00 会話分析と概念分析の関係を再考する

企画主旨:

近年(2006年度から2008年度にかけて),日本語で書かれたEMCAの研究書が立て続けに出版されました。それらを一望すると,一方で,日本語の会話分析・相互行為分析の洗練と蓄積が示され,他方で,原点に立ち戻りつつ概念分析の可能性が模索されています。そしてそれだけでなく,その両者を一貫したものとして理解しようとする論考もみることができます。そこで,本プログラムでは,会話や相互行為についての研究と,概念の連関についての研究との関係について再考してみたく思います。さまざまなEMCAの知見を参照しつつも,たんに「理論」的な観点のみからではなく、実際の現象の「記述」という観点からみて,さまざまな研究方針それぞれの利点を生かしていく方向性について,議論する場となれば幸いです。

14:00-14:20 EMCA研広報活動報告:五十嵐素子(光陵女子短期大学)・酒井泰斗(無所属)
(司会進行:五十嵐素子・酒井泰斗)
14:20-15:00 報告1:浦野 茂 (青森大学)「社会学における概念分析の使い道――人種をめぐる近年の議論の検討を通じて」 [→要旨
15:00-15:40 報告2:前田泰樹(東海大学)「失語症研究と言語療法の社会学的記述――記憶と想起の論理文法」 [→要旨
15:40-16:20 報告3:串田秀也(大阪教育大学)「精神科デイケア面接場面における「気になる」こと」 [→要旨
16:20-17:00 全体討論

プログラム1:研究報告と議論〔報告要旨〕

研究報告1:岩田夏穂(東京国際大学)・初鹿野阿れ(東京外国語大学)・西阪仰(明治学院大学)「発話連鎖におけるからかいと反応」

報告要旨:

報告者らは,3つの日常会話断片を繰り返し検討しているなかで、いくつか「からかい連鎖」と呼べるようなものを見出した。この連鎖が,隣接ペアのように、開始部が完結部を強く示するものであるかどうかはおいておくとして、「からかい」が出現したあとには、それに対する「反応」のための何らかの位置が用意されるように思える。一方、「反応」には、からかいへの同調性という点において、ゆるい順序化があるようにも思える。この報告では、この順序化を確認するとともに、どのような反応がその序列にもとづいて選ばれるかについてそのレリバンス・ルールのようなものを、とくに、からかいの出現する発話連鎖上の位置に注目しながら,定式化するための手がかりを得たいと考える。

研究報告2:田中剛太(明治学院大学大学院)「からかいの誘い」

報告要旨:

本報告では、会話における「からかい(teasing)」の連鎖の中でも、特に、次の順番において「からかい」を受けることを期待していると思われるような発話順番に焦点を当てる。ただし、そのような「からかいの誘い」自体は、必ずしも「自己卑下」的な発話であるとは限らない。むしろ、相手から何らかの形で非同意が提示されることに志向しているような発話であることが多いように思われる。本報告は、このような「からかいの誘い」、言わば”teasable”が見られる行為連鎖上の環境、およびそれが持つ相互行為上の役割について、どのように分析・記述できるかを探るための話題を提供するものである。

研究報告3:権賢貞(筑波大学大学院)「日本語第一言語話者と第二言語話者の相互行為における知識探索:指示対象に対する間 主観性と相互行為の進行性をめぐって」

報告要旨:

本発表は、初対面の日本語第一言語話者と第二言語 話者が、本発表者の論文のデータ収集への協力を頼まれ、与えられたタスク(絵カードを説明し合い、一つ の物語を完成する課題)を行った会話を分析対象とする。特に、本発表は、話し手が、ある対象物を表す語(日本語及び英語)に対して受け手の知識を照会し「Xってわかりますか/知ってますか」)、主要活動の進行性が停滞する現象に注目する。本発表では、 会話参与者たちが、指示対象に対する知識を確立することと、主要活動を進行することの間に生じる交渉をどのように対処しているのかについて観察していきたい。また、会話参与者たちが、どのようにして指示対象を「日本語」で示すことを志向しているのかを観察することで、日本語使用における会話参与者のアイデンティティについて考えたい。

プログラム2:テーマ「会話分析と概念分析の関係を再考する」〔報告要旨〕

報告1:浦野 茂「社会学における概念分析の使い道――人種をめぐる近年の議論の検討を通じて]

報告要旨:

人間と社会についての経験科学的知識は、それじたいが社会関係のなかにおいて、したがってこれを理解可能にする一連の概念連関を根底的リソースとして、成立している。知識生産を成り立たせているこのようなリソースの使用実践を記述していくという作業は、エスノメソドロジーのひとつの課題をなしてきた。そして現代の社会生活が科学的知識を不可欠な契機として成立しているとすれば、このような作業はこの生活(の一部)の記述でもあると言えるはずである。

このような視点に立ちながらこの報告では、遺伝学の進展などを背景にしながらあらためて提起されつつある科学的人種概念をとりあげる。すでにさまざまな批判がこの概念に対してなされてはいるものの、報告ではむしろこの概念の用法を記述していくことを通じ、この概念を構成要素としている知識の社会的含意を把握することをおこなってみたい。

報告2:前田泰樹「失語症研究と言語療法の社会学的記述――記憶と想起の論理文法」

報告要旨:

C. Goodwin は、失語症について、損傷としては頭部にあるが、生活形式としてその占める場所は一つのシステムである、と述べた(Goodwin 1995)。 報告者も含め多くのEMCA研究者が、この洞察に導かれながら、問いをいたずらに個人化しないような仕方で、失語症を持つ人との会話/相互行為についての研究を行ってきた。 他方、この洞察からは、そもそも、語の想起が難しいといった出来事が、どのように脳の損傷と結びつけられて理解されるようになったのか、また、そのようにして得られた専門的知識は、どのように使用されうるものなのか、という問いも、導かれるはずだ。本報告では、ウィトゲンシュタイン派EMの概念分析の立場から、これらの問いについて考えることを通じて、概念の連関についての研究と会話や相互行為についての研究との関係を再考してみたい。

報告3:串田秀也「精神科デイケア面接場面における「気になる」こと」

報告要旨:

本報告では、精神科患者と医療関係者や地域住民とのかかわりに関する共同研究の一環として、精神科デイケア利用者と精神科医のあいだで行われた面接場面を取り上げ、会話分析の立場からの予備的な分析を行ってみたい。この面接場面では、精神科医が最近の症状について質問したり、利用者が自分の症状を述べたりするとき、「気になる」「感じがする」といった表現がしばしば用いられている。これらの表現を含む発話が、精神症状について報告したり報告を聴取したりするという活動において、どのような相互行為上の資源となっているのかを考えてみたい。また、それを通じて、精神症状というものがどのようにして相互行為の中で可視化されているのかを考えてみたい。