2016年度 春の研究例会 短信

→短信:報告と写真を掲載しました [2017/07/27]

EMCA研究会2016年度春の研究例会のプログラムをお送りいたします。今回は Harvey Sacks の Lectures on Conversation 発刊25周年特別企画もございますので、お誘い合わせの上、奮ってご参加いただければ幸いです。

(大会担当世話人:黒嶋智美・森一平)(最終更新:2017年03月08日)

日時 2017年3月26日(日)9:00-17:00
場所 成城大学3号館1階 311教室[地図
大会参加費 無料(会員・非会員とも)
事前参加申込 不要

プログラム

09:00 受付開始
09:30-12:00 第1部 自由報告 (司会 森一平(帝京大学))
09:30-10:00 坂井愛理(東京大学大学院)「訪問マッサージにおけるアカウントの実践――「情報の釣り出し装置」ならびに「訂正誘引装置」の使用に注目して」 [→要旨
10:00-10:30 團 康晃(公益財団法人たばこ総合研究センター)「会話の組織と嗜好品摂取の関係についての研究」[→要旨
10:30-11:00 畑和樹(Newcastle University)「一般会話における終助詞butとtrailoffの会話構造」[→要旨
11:00-11:30 岡田光弘(国際基督教大学)「観察社会学にとって、「概念分析」とはいかなるものなのか?――P.Winchを正確に「誤読する」試み?」 [→要旨
11:30-12:00 中川敦(宇都宮大学)「遠距離介護のコミュニケーションにおける高齢者の本人参加――高齢者への次話者選択時の離れて暮らす子供の自己選択順番取得」 [→要旨
12:00-13:30 昼食
13:30-17:00 第二部:実践のなかの経験と知識――研究動向と展望
(Harvey Sacks, Lectures on Conversation 発刊25周年特別企画シンポジウム)
13:30-13:45 主旨説明 司会 黒嶋智美(日本学術振興会・千葉大学)・森一平(帝京大学)(15分)
13:45-14:15 報告1(30分):早野薫(日本女子大学)
14:15-14:45 報告2(30分):西阪仰(千葉大学)
14:45-15:15 報告3(30分):前田泰樹(東海大学)
15:15-15:45 報告4(30分):中村和生(青森大学)
15:45-16:00 休憩(15分)
16:00-16:30 パネルディスカッション(30分)
16:30-17:00 全体討論(30分)
17:00 閉会

自由報告概要

1.訪問マッサージにおけるアカウントの実践:「情報の釣り出し装置」ならびに「訂正誘引装置」の使用に注目して 坂井愛理(東京大学大学院)

 本報告では,訪問マッサージサービスのビデオデータを資料に,患者の身体にアカウントが与えられるやり方について検討する.

 訪問マッサージとは,脳梗塞後の麻痺等を持ち自宅や施設で療養中の者に対して継続的に行われる,運動機能維持・苦痛緩和サービスである.

 本報告が注目するのは,20分の全身マッサージを行う中で,施術者が身体の「いつもとは違う」様子を,患者のうえに発見し,その発生理由について患者に説明機会を与える,というやりとりである.このとき施術者は,(1) 情報の釣り出し装置(Pomerantz 1980)を用いて,患者にアカウントの機会を与えることが出来る.あるいは,(2)理由の候補を挙げながら尋ねることによって(Sacks 1992, Pomerantz 1988),患者にアカウントを求めることができる.患者はこれらの機会を利用して,身体のいつもとは違う様子にアカウントを与え,身体を「正常化(normalize, Jefferson 2004)」することができる.本報告では具体的な会話断片を示しながら,(1)や(2)の装置がどのように使用されているのかについて検討する.

2.会話の組織と嗜好品摂取の関係についての研究 團康晃(公益財団法人たばこ総合研究センター)

 日常的なおしゃべりや仕事の会議など、様々な活動場面において会話が進行する中で嗜好品が摂取されるということがある。そこには嗜好品を端的にノドが渇いたから飲む、おなかが空いたから食べる、といった生理的な側面だけではなく、嗜好品摂取による進行している活動への影響関係という社会的な側面もあると考えられる。これまでも会話分析の研究の蓄積において、そこで扱われているデータの中には嗜好品の摂取がなされているものも少なくなかったが(Goodwin1979, 西阪2008など)、会話の組織と嗜好品摂取との関係について焦点をあてる研究は少ない。本報告では、会話の組織と嗜好品摂取の関係についてエスノメソドロジー・会話分析の立場から明らかにすることを目的としている。

 本報告では、三名によるおしゃべり、読書会、懇親会などの場面のビデオデータ(2016年に撮影、6ケース、約10時間分)を対象に、参加者の参加の枠組みや発話と嗜好品摂取の関係に焦点をあてて分析を行う。

 報告当日は、特に話し手であることと嗜好品の摂取に焦点をあてた個別事例の分析をいくつか示したい。

3.一般会話における終助詞butとtrailoffの会話構造 畑和樹(Newcastle University)

 我々は様々な装置を駆使することで対話行為を履行しており、文法もそれらの一つである。本発表では会話分析の観点から、終助詞butを伴うtrailoff現象の再記述を試みる。具体的な事例として、以下のような会話構造に焦点を当てる。

Excerpt (1): Tape_026602
1     NIN:   did you see, you ↑know ↓this ↑last gardener's;
2            (1.2)
3     CLA:   gardener's ↑world.=
4     NIN:   =gar:dener's world.
5            (1.7)
6     CLA:   I ↑haven't >really looked at it,<=
7  →         =no I ↑glanced (.) very briefly↓ at it;=but_
8            (1.2)
9  >  NIN:   where it had er↓ a broom ↑garden.   
10           (0.4)
11    CLA:   no↓ I didn't see that
12    NIN:   oh_=let's have a look and see if
13           I can find it.

 BNC(British National Corpus)から得た音声サンプルを基に、終助詞butを伴う順番完了の指標や、話者の認識、その後の行為における対話構造等に焦点を当て、これまで見過ごされてきたtrailoffにおける「行為連鎖」を明らかにしたい。

 先行研究で述べられている通り、trailoff butは話者らに会話構造の情報を与えることで語順の統語的・文法的な完了を待つことなく話者交代を引き起こすことが見られる。つまりtrailoffにおけるbutは新情報導入のために置かれるのではなく、これまで構築された対比を話者らに再認識させることを示している。しかし、(終助詞としての)butの順番内機能に対し、trailoffを伴う行為連鎖や会話構造にはあまり焦点が当てられていない。

 本発表では、trailoff butの「受け手」が起こす行動形式に注目し、当現象における行為連鎖、実践された異なる構造形式を考察する。まず先行研究で記述された通り、受け手の行為が(butで完了された)直前の順番に関連付けられることで、会話の継続と目的の履行を行うことが今回の分析においても確認された。この場合、受け手はbut後の沈黙に順番移行に関する適切な場所を見出し、行為の連鎖を継続したことが示唆される。一方、受け手はbut後の沈黙を語順完結可能な場所としてのみではなく行為連鎖そのものを完結可能とみなし、関連する順番を産出することなく新たな連鎖をはじめる現象も見られた。これらの異なる会話構造や話者らの実践を読み解くことでtrailoffの複雑さを示し、また行為連鎖の観点から当現象を分析する重要性を論じたい。

4.観察社会学にとって、「概念分析」とはいかなるものなのか?――P.Winchを正確に「誤読する」試み? 岡田光弘(国際基督教大学)

 Peter Winch のThe Idea of Social Science (1958)とUnderstanding a primitive society(1964)の刊行と、そこでのWinchの立論は、特に、マンチェスター学派のエスノメソドロジー研究に大きな影響を与えた。

 Winch の論点は、「ルールを理解して身につけることと、それに従うこと」と「観察と推論を介して法則のような規則性を確立する」こととの違いである。現実の社会学者の多くは、「言語ゲーム」に参加することで、研究対象となっている社会生活の規則性を観察することはせず、法則を求めて、仮説と検証の過程へと進む。これへの批判とそれに代わる具体的な研究方針がEMであると考えられる。

 Winchの論点に、「『社会関係』は『規則に従う』ことの論理的な前提となっている。」というものがある。ここでの問題は、「社会関係」の内実である。「社会関係」は「会話における概念の交換」に例えられており、Sacksは、「概念の交換」を可視化する手だてを産み出した。

 「『規則』という語の用法は、『同じ』という語の用法と織り合わされている」とい論点について言うと、ここでの「同じ」という秩序は、「可視性」によって担保される。Garfinkelらは、Winchに「可視性」への感受性が欠けていることを指摘した。概念が作動することによって得られる「可視性」に注目することで、EMは、Winchを乗り越えて歩みを進めることができた。

5.遠距離介護のコミュニケーションにおける高齢者の本人参加――高齢者への次話者選択時の離れて暮らす子供の自己選択順番取得 中川敦(宇都宮大学)

 遠距離介護の研究においては高齢者本人の意思を尊重することの重要性が指摘されることがある。高齢者の意思を尊重するための一つの方法は、高齢者本人が、離れて暮らす家族、福祉の専門職者とのコミュニケーション中で、発話を行なう機会を作り出すことであると考えられる。ところが、実際の遠距離介護におけるコミュニケーションを観察すると、時に、高齢者本人がそうしたコミュニケーションに参与する機会が生じていても、高齢者本人ではなく、離れて暮らす子供がその機会を利用して発話を行なうことがある。本研究の目的はこうした場面に焦点を当て、そのような現象が、なぜ(why)、そのような形で(that)、その時に(now)生じているのかを、会話分析の方法を用いて明らかにすることにある。具体的に分析の対象とするのは、ケアマネジャーによって高齢者が次話者として選択されているときに、(次話者として選択されていない)離れて暮らす子供が順番取得を行なうという現象である。分析の結果、次話者選択順番と自己選択順番との間の沈黙の有無、次話者選択順番、および自己選択順番における行為の位相に、高齢者が次話者選択されているにもかかわらず、離れて暮らす子供が自己選択を行なう理由が示されていることが明らかになった。

お問い合わせ

  • この案内に関する問い合わせは、森 一平()まで
  • 研究例会に関する問い合わせは、EMCA研世話人(エスノメソドロジー・会話分析研究会 世話人)まで
  • 入会手続き等、EMCA研に関する問い合わせは、EMCA研事務局(エスノメソドロジー・会話分析研究会 事務局)まで