2011年度 春の研究例会 短信

→短信:簡単な報告と写真を掲載しました [2013/03/25]

概要

2012年3月31日土曜日に東京の明治学院大学にて、EMCA研春の例会を計画しております。

担当世話人:小宮友根 西阪 仰 高木智世(最終更新:2013年3月25日)

日時 2012年3月31日土曜日 10:00から16:50まで
場所 明治学院大学 白金校舎 本館4階 [交通アクセス
大会参加費 無料(会員・非会員とも)
事前参加申込 不要

プログラム

個人報告(10:00-12:10)

※個人報告は二つの教室での併行開催

1402室 10:00-11:00 北村隆憲(東海大学)「法専門職の相互行為知識と評議における知識系・アイデンティティ:
ビデオデータによる反対尋問と陪審評議の分析を素材に」 [→要旨
11:10-12:10 菅野昌史(いわき明星大学)「判決文における『社会』の用法」 [→要旨
1407室 10:00-11:00 團康晃(東京大学)「歌うことをすること」[→要旨
11:10-12:10 須永将史(首都大学東京), 西阪仰(明治学院大学),早野 薫(マックス・プランク研究所),黒嶋智美(産業技術総合研究所),岩田夏穂(大月市立短期大学)
「東日本大震災および福島第一原子力発電所事故による避難者とボランティアの『足湯』におけるコミュニケーション」[→要旨
12:10-13:10 昼休み

論文評セッション(13:10-17:00)

1406室 13:10-14:20 山田恵子:「リアリテイとしての法と心理」『神戸法学年報』25号(2009年),pp. 37-132.評者: 浦野茂(三重県立看護大学),小宮友根(学術振興会)リプライ: 山田恵子(京都女子大学)

14:30-15:40 早野薫(Hayano, Kaoru),Claiming epistemic primacy: yo- marked assessments in Japanese. In Tanya Stivers, Lorenza Mondada, Jakob Steensig, eds. (2011) The Morality of Knowledge in Conversation, pp.
58-81. Cambridge: Cambridge University Press.評者: 前田泰樹(東海大学),高木智世(筑波大学)リプライ: 早野薫(マックス・プランク研究所)
15:50-17:00 平本毅:「他者を『わかる』やり方にかんする会話分析的研究」『社会学評論』 61(2), pp. 153-171.評者: 中村和生(青森大学),西阪仰(明治学院大学)リプライ: 平本毅(京都大学)

報告要旨

[北村要旨]

本報告はEMCA的な観点から二つのビデオデータを分析して、EMCAによるアプローチが法実践に関する新たな知見を生み出す可能性を示唆するものである。まず、米国のレイプ事件(ケネディ・スミスレイプ事件)の刑事裁判における反対尋問のデータである。裁判員制度導入に合わせて、日本でも反対尋問の方法についての法実務家向けのテキストブックが多数出版されているが、そこでは反対尋問とは誘導尋問(YES/NO 質問)のみを使って証人の返答をコントロールしていくテクニックであることが強調されている。そうしたテキストに記載された想定尋問会話では、例外なく、「質問形式に適合」した「優先的」返答(type-conforming and preferredresponses)のみがなされることが想定され、いわゆるオープン質問(Wh-質問など)をおこなってYes/Noの質問形式の枠を超える返答(non-conforming responses)を証人にさせることは、反対尋問の失敗事例として描かれている。

しかし、レイプ事件のビデオデータに見られるように、Yes/No質問に対してYes/Noの枠を超える返答は頻繁になされており、そのような返答に対して、尋問者は法廷場面特有の方法(ethno-methodology)でそれに対処していることが観察できる。弁護士向けテキストブックに描かれた反対尋問のやり取りは、「専門家の相互行為知識ストック」(A.Pelakyla)を構成しており、EMCAの観点による質的分析がこの知識ストックの批判的再構成に貢献できる可能性がある。また、そうした知見は法科大学院などでの法実務のトレーニングに利用することができるかもしれない。もう一つは、NHKドキュメント「あなたは死刑を宣告できますか」での裁判員裁判の評議場面である。これは模擬評議であり、実際の評議場面はわずかであり編集されているとはいえ、真実味のある環境の中で市民の裁判員と裁判官とが真剣に評議をおこなっている。裁判員制度導入直前まで全国500回程度行われたといわれる法曹三者合同の模擬裁判について、日弁連の委員として関わった言語学者の堀田秀吾氏が、手に入れられた大量の模擬評議の会話データを計量的に分析して最近公表されている。このテクスト・マイニング手法による計量的分析のなかで、裁判官と裁判員のコミュニケーションにみられる発話行為の分類に基づいて対応分析が行われている。その中には、たとえば、「他者の発言への補足」という発話行為カテゴリーがあり、陪席裁判官が頻繁に行う発言であるという知見が得られている。NHKドキュメントの中でも、陪席裁判官の一人によって何度も裁判員の発言や実演への「補足」が行われていることが観察できるが、実際の会話の流れを分析してみると、そこでは「補足」以上の活動(裁判員の意見に仮託しつつ法的な視点を導入する、裁判員たちの実演活動を定式化してその法的意味を確定させる、など)が行われ、それが評決に対して重要な意味をもっていることが分かる。このように、法実践についての定量的な分析とともに、EMCAに基づいて発話の流れを詳細に分析していく質的なアプローチによって、法実践についての新たな知見が得られる可能性があるだろう。(以上)

[菅野要旨]

法社会学では通例、法が「社会」へ与えるインパクトが社会科学の諸方法を使って分析、測定、評価されたりする。しかし、法がそもそも社会を統制する手段であるとするなら、法が生成されるとき、すでにそこには「社会」についての何らかの理解が含まれているはずである。そこで本報告では、法の世界の外の論理をもちこむのではなく、まずは法の世界の住人が「社会」をどのように理解しながら何を実現しようとしているのかを記述してみたい。具体的には、刑事裁判(少年事件を含む)の判決文における量刑判断で裁判官が「社会」という概念を用いながら、自分たちをどこへどのように方向づけているのか明らかにする。

[團要旨]

これまで音楽に関する社会学的研究は、楽曲をその社会的背景から解釈するものや、音楽産業の社会・経済的背景を明らかにするものが主たるものであり、音楽をすることそのものについての研究は幾つかの例外をのぞけばほとんどなされてこなかった。本報告は、そのような音楽をすること、殊、歌うことの相互行為分析である。注目するのは、記譜されていないが、歌うことにとって重要な幾つかの方法についての指導だ。具体的には音程の高低と発声における響きの高低の区別が歌うことの連続性を維持するために重要なものとなっていることを確認し、その区別が、如何に講師が生徒に理解させるのかを、ビデオデータをもとに、発話行為、身体の配置、身振り等に着目して分析していきたい。

[須永,西阪,早野,黒嶋,岩田要旨]

本報告では,福島県における震災および原発事故による避難者のみなさんと,「足湯」ボランティアのみなさんとのコミュニケーションに関する研究を報告する.発表者らは,震災以降,福島県内の避難所・仮設住宅に定期的に赴き,ビデオ録画を行なっている.本報告では,そこで録画したデータを用い,具体的な発話を通して次のようなことを検討する.

  • ボランティアが,様々な活動を通して,どのように学習していくのか.
  • 避難者の語る「困難(=トラブル)」に対し,ボランティアはどのような応答をしているか.またはそうした応答を通して何を行なっているのか.
  • 足湯という場面は,会話とマッサージが「同時に」行なわれる場面である.そこにおいて,会話(特に避難者が困難を語ること)とマッサージはどういう関係にあるか

以上の方向を念頭に置きつつ,「足湯」という場面の経験的研究を報告したい.

お問い合わせ

  • 研究例会に関する問い合わせは、エスノメソドロジー・会話分析研究会 世話人(EMCA研世話人)まで
  • 入会手続き等、EMCA研に関する問い合わせは、エスノメソドロジー・会話分析研究会 事務局(EMCA研事務局)まで