2006年度 研究例会 短信

→短信:簡単な報告と写真を掲載しました [2007/05/06]

概要

開催日時 2007年3月17日土曜日 9時30分~17時30分
会場 明治学院大学白金校地 本館4階1402教室[地図
参加費 会員 500円、非会員 1,000円(仮)

  • 事前申し込みは不要です。
  • 当日、申し出により仮会員登録をすることも可能です。(その場合は会員の参加費が適用されます。)
プログラム1(午前の部) 研究報告会(9時30分~12時30分)
プログラム2(午後の部) EMCA教授法懇談会(13時30分~17時30分)

プログラム1(午前の部):研究報告会(9時30分~11時00分)

9:30~11:00 研究報告1

岡田みさを(北星学園大学)報告タイトル:「いわゆる「男性専用」動詞命令形は「男性性」を表しているか?」
報告要旨

本研究では、ボクシング指導時に女性トレーナーによって使用される、従来「男性専用」指示表現とされてきた動詞命令形(例:「打て」)に焦点をあて、1)どのような談話文脈でこれらが選択されるのか、2)その談話における相互行為の中で、動詞命令形を含む発話が、周囲の発話、非言語行動やものの使用と組み合わされてどのような行動や話者のアイデンティティーを表しているのかを分析する。分析の手法として、CAの会話シークエンス分析、及び同時に起こる言語/非言語などのリソースの並列がどのように或る「行動」の創出に寄与しているかを分析したC. Goodwin (2003)の手法を用いる。

分析を通じ,従来の日本語社会言語学において「男性性」と結びつけられてきた言語形式の選択及びその言語形式を含む発話が、実際にはその場その場のリソースと組み合わさってその状況に依存した意味(例えばその場のボクシングの動きに必要とされる「動作の迅速性」など)を表していることを示す。参加者たち自身がその場で表している行動や志向を見ようとするCA的な微視的談話分析が、日本語の「言語とジェンダー」研究にどのような貢献ができるのかを考察する。

11:00~12:30 研究報告2

田中剛太(明治学院大学大学院)報告タイトル:「相手が言おうとしていることを先取りして言うこと」
報告要旨

本報告の出発点となるのは、日常会話の中で起きていると思われる次のような現象である。話し手が「複合的な順番構成単位(compound TCU)」を産出している途中で、聞き手がその最終部分を予測し、話し手に代わってその最終部分を発話することがある。いわゆるTCUの共同構築(共同完了)であるが、このうち、最終部分の話し手が、それまでの部分を聞いた時点で、「そこから先は聞くに値するさらなる積極的な内容は来ない」と言っているような印象を与えるものがある。個別にシークエンシャルな環境を検討することによって、そのような「予測に基づいた完了(anticipatory completion)」が、「なぜ」「この位置で」為されたのか、なぜそこで順番が代わったのかを記述することを試みる。

プログラム2(午後の部):EMCA教授法懇談会(13時30分~17時30分)

13:30~14:30 話題提供1

鈴木 佳奈(情報通信研究機構)テーマ:教養科目としての会話分析入門──半期の授業でなにをどう教えるか

1回生向け半期12~13回の授業で会話分析を教える際の諸問題を考える

1.なにを教えるか
  • CAの概念(「ターンテイキング」,「連鎖構造」,「修復」など)を浅く広く教えるか,特定のテーマに特化するか(資料1:シラバス例)
  • 文字化記号および文字化の仕方を教えるか
  • エスノ的背景にも触れるか
  • 参考文献をどう扱うか
2.どう教えるか
  • 会話の客観的な観察についての学生の理解をどう養うか
  • 理論や概念を中心にするか,具体例の分析を中心にするか
  • (資料2:ハンドアウト例)
  • 練習問題を組み込むなどして,学生に分析を行わせるか
  • リーディングを課すか
  • 試験にするかレポートにするか(資料3:試験例)

14:30~15:30 話題提供2

西阪 仰(明治学院大学)テーマ:相互行為分析の演習2ヵ年分の組み立てについて
  1. 演習1については、シェグロフの授業のまねなので概要を2分ぐらいで説明(資料(1)): 概念の説明、トランスクリプトとCDを配布し練習を行なってもらう、など。
  2. 演習2の組み立ての説明(5分ぐらい)
    • 春学期は構築されたデータセッション(資料(2)): テーマを決めて一つの断片を見るやり方と、一つのテーマについてコレクションを見るやり方
    • 春学期: データ収集
    • 夏合宿: 現象のコレクション
    • 秋学期: 学生による分析の発表
  3. 問題点の説明(3分ぐらい)おもに個々の分析をどのように一つの論文としてまとめるか。そのための「指導」はどのように可能か。たとえば、分類させる。
    そのときの分類の軸:誰が開始者か、シークエンス上の位置、発話形式、セグメントの開始と完結など

15:30~15:45 休 憩

15:45~16:30 話題提供3

細田由利(神奈川大学)・高木智世(筑波大学)・鈴木佳奈(情報通信研究機構)テーマ:学部レベル通年コースでの使用を想定した会話分析入門テキストは、どのようなものが望ましいか
  1. テキスト全体の構成:何を含めて何を外すか。どこまで正(精)確さを求めるか。
    • 章立て(内容と順番)―例)CAの背景、トランスクリプトについて、データ例、ターンテイキング、連鎖、修復、物語、カテゴリー、CAの応用
    • CA成立の背景、CAの視点・基本的姿勢をどの程度解説するか
  2. 章の構成
    • 具体例を先に出すか、概念の解説を先にするか
    • 「練習問題」を付けるか、「解答」を付けるか
  3. 重要概念の扱い
    • とくに、ターンテイキングシステム、TCUをどう解説するか
  4. 訳し方の問題
    • organization, turn, preference, orient, project, relevance など

16:30~17:30 話題提供4

樫田美雄(徳島大学)テーマ:対象の選定法、ゲスト講師招聘ノウハウ、報告書原稿締め切り維持ノウハウ

「エスノメソドロジー会話分析における教授法」という観点よりも、むしろ、「質的調査の実習授業運営ノウハウ」という観点から、これまでの実践報告を行う。

  1. 対象の選定法:なるべく地元のネタを探して提供する。その方が、学生の研究意欲を高めやすく、周囲の援助も得やすい。これまでの実績を列挙すると、「ラジオスタジオ……教員自身が出演している地元のラジオ局」、「社協事務所……他の共同研究でお付き合いのあった県内の社会福祉協議会の事務所」「義肢・装具の製作所……地場産業として存在していた製作所」「鍼灸……これは実施中なので匿名保持のため詳細は秘密だが、大きくいって地元ネタ」
  2. ゲスト講師招聘ノウハウ:テキストの読解と調査およびその第1次分析をなるべく前倒しする学生の動機付けのために、外部招聘講師を活用する。その日程につねに言及しつつ、日程の遅延を防止する。外部講師の執筆論文を前もって読ませることで授業参加意欲を高めることもできる。
  3. 報告書原稿締め切り維持ノウハウ:報告書は、印刷屋に出さない。自力で印刷製本させると、原稿遅れは、他の学生に対したいへんなめいわくになるので、自然と遅延はなくなる(あるいは、遅延学生への手伝いが自然と起きる)。ただし、これはグループをつくって活動をさせていたから可能であった方式のようであり、本年のように、個人単独執筆原稿方式では、効果が限定的なようである。