2020年度春のエスノメソドロジー・会話分析研究会例会は、秋の研究大会に引き続き、オンライン会議方式で開催された。プログラムは自由報告とテーマセッション「コロナ禍とエスノメソドロジー・会話分析」からなる。午前中の自由報告は会話分析の研究成果が3本報告された(安井 永子氏(名古屋大学)の「第三者からの呼びかけに対する参与枠組みの調整—親の会話が子どもからの介入を受けるとき—」、中川 敦氏(宇都宮大学)の「遠距離介護のEメールにおける離れて暮らす子供とケアマネジャーの意思決定過程の解明」、平本 毅氏(京都府立大学)の「冗長な買い物の合理的な理由」。)。それぞれ、午後のテーマセッション「コロナ禍とエスノメソドロジー・会話分析」とも関連づけられる内容を含んでいたこともあり、活発な議論が交わされた。
午後はテーマセッション「コロナ禍とエスノメソドロジー・会話分析」を開催した。通常の大会・例会ではこの枠はシンポジウムの形式をとることが多いが、今回はテーマに鑑みて、シンポジウムではなくテーマセッションとして開催した。コロナ禍とエスノメソドロジー・会話分析の関係についてはまだ議論の蓄積が存在しないので、講演の形式をとるより、カジュアルに意見交換を行う形式のほうが適切であると判断したためである。
テーマセッションではまず、4本の話題提供が行われた(吉川侑輝氏(立教大学)の「遠隔による音楽活動にかかわるエスノメソドロジー—研究文献のレビューとその含意」、團康晃氏(大阪経済大学)の「コロナ禍の趣味実践へのEMCAからのアプローチ」、是永論氏(立教大学)の「『選択の人類学』としてのエスノメソドロジー:コロナ禍における『行動と意志』」、細馬宏通氏(早稲田大学)の「子供はCovid-19禍の生活をいかに組織化しうるか—BBCインタビューの事例を手がかりに—」。)。このうち吉川氏と團氏の報告は、ステイホームを求められる状況における、家庭内で行う趣味的な活動についてのものであった。是永氏の報告は、コロナ禍の状況下での人間行動の「選択」を、EMCAの立場から捉え直す試みについてのものであった。細馬氏の報告は、在宅勤務のインタビューと、家庭内のやりとりとが交錯する場面の分析についてであった。
話題提供に続いて、ブレイクアウトルームを使ったディスカッションが行われた。上述のように、テーマセッションはコロナ禍とEMCAの関係について、カジュアルな意見交換を行うことを意図して設けられたものであるが、その意図通りに、各ルーム内では建設的な意見交換が行われたようである。それらは、話題提供時に触れられなかった点の補足から、分析の仔細に踏み込む質問、午前中の自由報告における関連点への言及、コロナ禍におけるEMCA研究の可能性などに及んだ。
ブレイクアウトルームで交わされた議論をまとめるために、続けて全体討論が行われ、盛会のうちに例会を終えることができた。コロナ禍に直面して、学会や研究会などの研究互助組織も、パンデミックにどう向き合うのかを考えることが求められている。エスノメソドロジー・会話分析は人の日常の実践についての経験的研究を行うものなので、人が生活の仕方を大きく変えざるをえないコロナ禍の状況下において、研究を通じてなにかできることもあるはずである。一日のプログラムでは結論を出すには至らないが、議論の種を蒔くことはできたのではないかと思う。
平本 毅・城 綾実