エスノメソドロジー・会話分析研究会: 2010年度秋の研究大会・短信

2010年度 秋の研究大会が、2010年11月8日に京都大学にて開催されました。 当日は平日にもかかわらず47名の参加者を迎え、盛況のうちに閉会しました。 参加者から、当日の報告について振りかえっていただきました。

(EMCA研究会ニュースレターから抜粋掲載しています。 詳しい内容については会員用のニュースレターでご覧ください。(編集 是永))

内容の詳細は→活動の記録(2010年度)をご覧ください。

短信

一般報告

吉村 雅樹さん

「或る認知症高齢者と健常者の視線変化数と行為頻度数の比較」という主題で発表させていただきました。しかし、実は私にとっては副題である「「困難」という評価をめぐっての再考」の方が発表の趣旨により近いものでした。認知症高齢者の生活では、身体機能の障害によらないのに、しばしば「xxができない」「xxをしてくれない」という事態によく出会います.日常生活における「xxができない」「xxをしてくれない」という高齢当事者の状況は、その時に必要な行為が遂行されないことによる物理的な停滞を生じるだけではありません。かって、2008年秋のEMCA研究会で、介護施設で高齢者の身体を強要する咀嚼指導について発表させていただいたことがありました。かねてから、コミュニケーションの限界を伴いながら、周囲の人々をモヤモヤ、またイライラとさせさるような困難性を事例に即して説明できないかと考えていました。こうした困難は認知症高齢者に属するものであると見なされているが、実は高齢者当事者にではなく、周囲の人々自身に生じている心的な困難であることは明らかです。その意味では、周囲の人々と高齢者との相互行為的な交渉のなかにこそ困難の真相があるであろうことは確かでした。そして、今回は前回の発表では意図しつつもうまく説明できなかった部分を、少しは説明できたのではないかと考えています。

池谷 のぞみさん

公衆衛生の分野では、運動習慣を行動介入によっていかに改善するかが焦点の一つとなってきた。日本でもメタボリック・シンドロームに焦点をあてた健康プログラムとして、特定検診・特定保健指導が開始された。食事と運動両面での行動変容支援の一環として行われる保健指導は、基本的に対面で実施されることが想定されている。しかしその対面支援における実践に関する調査研究はなされていない。報告では、 運動習慣に関わる支援の環境を整え、参加者を募集し、人間ドックを起点とした約3ヶ月の支援を対象にした。特定保健指導そのものではないが、それにほぼ近い形の環境で実施しているが、対象者はいわゆる特定保健指導の対象(メタボリックシンドローム)となり得る人に限られていない。面談のビデオ録画や、関係者(支援者、支援対象者)へのインタビューを通じて得られたデータを対象にした分析結果を報告した。

西阪 仰さん

今回,急遽予定を変更し,妊婦の定期健診における妊婦による問題提示についての考察を発表した.この発表の最初のアイデアは,じつは一年前に,EMCA研の大会で,報告している.今回の発表はそれを精緻化したものである.本報告では,保健医療専門家による「通常の質問」(お腹の張り,むくみ,など,「通常の問題」に関する質問)への返答を拡張することで,妊婦はどのように自分の心配事を自主的に提示していくか,そのやり方に焦点を当てた.

シンポジウム「医療とケアのエスノメソドロジー」

海老田 大五朗さん

今回は、「柔道整復師のプロフェッショナルヴィジョンとインフォームド・コンセント」という題で発表しました。本研究で分析したデータは、柔道整復師がアキレス腱断裂手術後の患者に対し、超音波画像観察装置を使用してアキレス腱の状態を調べ、超音波画像からわかるアキレス腱の状態やその後のリハビリテーションの仕方について説明し、その後のリハビリテーションの仕方などについての同意を得るという場面のものでした。本研究の分析の焦点の一つは、柔道整復師にとっては「アキレス腱になっていない」証拠となる超音波画像の見方を柔道整復師がどのように患者に教えていくかというもので、もう一つの焦点が、今後のリハビリテーションについての患者からの同意を、どのようにして柔道整復師は得ていくかということでした。このような場面で、とりわけ患者の発話の第一成分がどのように産出され、どのように拡張されていったかを記述しました。

細馬 宏通さん

認知症高齢者グループホームの「カンファレンス」を観察すると、介護者どうしが盛んにジェスチャーを交わし介護経験を豊かに伝えていることに圧倒される。介護者どうしの会話では、同じ身体経験を経ている者との語らいの中で初めて明らかになり、表現を得るような身体経験があるのではないか。そして、それは、お互いの介護行動を更新することにあずかっているのではないか。このような問題意識を背景に、今回の発表では、介護者どうしの議論(カンファレンス)において、介護者のジェスチャーが彼らの経験を視覚化する現象を扱った。

串田 秀也さん

「精神科診察における “糸口” としての留保報告」というタイトルで発表させていただいた。私は現在、ある私立精神病院の外来診察場面の分析を進めており、その予備的成果の一部である。 この病院からビデオ録画の許可が得られたのはすべて再診場面なので、診察は、医師が「調子はどうですか?」のような質問によって、前回診察時以降の患者の状態を尋ねる(更新報告の要請)ことによって開始される。精神科外来に通う患者の多くは、長期にわたる通院(そのあいだに入院期間が入ることもある)生活を送って慢性期の状態にある。こうした患者たちが更新報告をするやり方は、大別するなら3通りある。第一は、特別な問題が生じていないという報告である。第二は、問題がある(何らかの心身症状が新たに生じた、ぶり返した、なくならない、など)という報告である。第三は、問題がないという概括的報告がなされたあとで、「ただ」「でも」のような表現に導かれ、概括への留保として特定の心身症状が報告される場合である。この発表では、この第三のタイプを「留保報告」と呼び、それがいかなる連鎖上の動機づけに基づいてなされるのかを考察するとともに、それが何らかのデリケートな問題を訴えるための最初の糸口として利用できる性質を持つことを論じた。

川島 理恵さん

今回,急遽予定を変更し、救急現場における看取り場面の会話分析について発表させていただいた.医療現場において映像データを収集することは,容易ではないことが多い.今回紹介したデータを得られるまで,5年以上救急の現場でフィールドワークを重ねてきた.その中で,最も興味のあった緊急場面での医療者と患者家族のやり取りを最近収録することが出来,早速preliminaryな形ではあったが今回の発表の焦点とした.

※近影は許可を頂いた方のみ掲載しております。